ご夫婦で庄原市口和町で牧場を営む福元さん。「人も牛も環境も、みんなが幸せになれる牧場」を目指し、「こどもが学んだり楽しんだりして、人間ってどうやって生きていくのか一緒に考えながら、時間や生き方を家族と共有して生きていきたい」と語る福元さんの暮らしをご紹介します。
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元々福島県で牧場を営まれていましが、2011年3月の東日本大震災により牛と共に広島へ移住。2012年に口和で新たな牧場【 ふくふく牧場 】の再開を果たされました。
自然の恵み、季節の喜びをこども達と満喫しながら生活できることが何よりの喜びだそうです。
ご夫婦で庄原市口和町で牧場を営む福元さん。酪農とは全く無縁だったお二人が牧場を始めた理由は家族でした。
「家族でちゃんと暮らしているというのをこどもにも味あわせてあげたいと思った」という紀生さんの想い。
「仕事でもあり、楽しみでもあり、生活でもある時間がみんな好き」という奈津さんの言葉。
時間や生き方を家族と共有して生きる、福元さんの暮らしの物語です。
暮らしのてまひま
ふくふく牧場 福元奈津さん
東京都伊豆大島出身。夫の紀生さんとふくふく牧場を営む。
福島県で放牧を始めるものの、東日本大震災の影響を受けて庄原市口和町に牛とともに移住。2012年から放牧を再開。毎朝搾る牛乳でチーズを作り、直売所などで販売。牧場体験も受け付けている。
庄原市口和町、「こんにちは~」の声が響く静かな山あいに「ふくふく牧場」はあります。チーズ工房の向いに牧場があり、緑の山肌に牛の姿がポツンポツン。こちらでは福元紀生さんと奈津さん、お子さん3人、そしてジャージー牛4頭が、自然の中で好奇心いっぱいに暮らしています。ふくふく牧場にゆったりと流れる優しいじかんの秘密、なんだか楽しそうなお二人が大切にしていることについて、奈津さんにお聞きしました。
牛が歩き回って山も人も健康に、循環するふくふく牧場
ふくふく牧場は、山を切り拓いて放牧地をつくり、そこで牛のえさである草を育て、牛を放牧し、牛乳を搾ってチーズを作るという、人も牛も環境にもみんなに優しい牧場を目指しています。
循環型酪農というそうです。
えさはほぼすべてを牧場で手作りし、牧場にも牧草畑にも農薬を一切与えていません。100%地元産で、輸入飼料なども与えていません。
そんな牛から作ったチーズはシンプルで素朴な味わい。「子どもたちにも安心して毎日食べさせられるものを作りたくて」。
製造でも保存用に添加物を一切使っていません。
雨の日の幸運な晴れ間に、奈津さんに案内していただいて牧場へ。
高い木々の間をしばらく歩くと、開けた場所に到着。大きく深呼吸をして、風と一緒にやってくる草の香りを体のすみずみに入れました。
「牛のうんちがありますよ~」と奈津さん。
教えていただくまで気が付かなかったほど、特有のあのにおいがほとんどありません。
「草だけを食べているので、あまりにおわないんです。草だけで育てるには牛1頭あたり1ヘクタール必要なので、4ヘクタールのふくふく牧場では4頭を育てています」。
この規模だとうんちも自然に土にかえるそうです。
「牛が草を食べて歩き回り、うんちやおしっこをすることで、放牧地の山もますます健康になっていくんです。
こうした自然循環や命に思いをはせていただけるとうれしいです」。
ふくふく牧場では、牧場を散策するトレッキング、乳しぼりやバターづくり体験も受け付けています。
地元ではない庄原、動くことで突破口が見えた
奈津さんは東京都伊豆大島出身で、子どものころから自然の中で遊びまわることが好き。
季節のにおいが身近にある暮らしをしたいという思いを持っていたそうです。
紀生さんは広島県廿日市市出身。
二人は広島市立大学で出会いました。
卒業後、奈津さんは人がよりよく生きるために学ぶことに興味があり高校の教員に。紀生さんは三次市の牧場に勤務。
「放牧地で自然に近い形で牛を育てたい」という紀生さんの話を聞いた奈津さんも興味を持ち、いろいろな人や生き方が交わる場所で生きたいと、二人は里山の放牧地を求めました。その場所を福島県に見つけ、約40ヘクタールの山を切り拓き放牧を始めました。
ところが東日本大震災で原発事故の影響で避難することになり、新たに牛を放牧できる土地を探しました。
紀生さんが勤めていた三次市の牧場や関係者の皆さんの協力で、現在の場所に牛とともに移住。
2012年4月に牧場を再開しました。
庄原市口和町は、奈津さんにとっても紀生さんにとっても初めての土地。
牧場の広さは4ヘクタールで福島の牧場の10分の1と小さくなり、放牧地の入口や牛舎は修繕から始めなくてはなりませんでした。
福島を離れたさみしさとともに、本当にこの広さ、この気候、土壌でうまくいくだろうかと、先が読めないことに不安を感じたそうです。
奈津さんは頭で考え過ぎてしまうタイプ、紀生さんはまず動くタイプ。
現在の牧場は芝が生え地面は緑色ですが、再開した10年前は土で茶色だったとのこと。
山を切り拓き、芝の種を植えても種が流れてしまうので、紀生さんが少しずつ苗を手で定植し芝を広げてきたそうです。
「紀生くんは、これからどうなるか分からない中でも、遠くを見すぎないで今できることを一歩一歩やることをやる人です。そんな姿を見て、考えていても突破口は開かれない、動くことで違う道も現れてくるかもって思えました」
口和町でやっていこうと決心してからも、お世話になった福島を出てきた後ろめたさや、この町に受け入れていただいている申し訳なさが心から離れなかったという奈津さん。
引っ越してきて1年ほどして長女を出産、子どもが持つエネルギーに生きる喜び感じるようになり、本来の元気さを取り戻していったそうです。
地域の「おせっかいさん」に声を掛けてもらい、「私たちも図々しくお願いをしながら」、そうするうちに地域のことも分かるようになってきました。
「移住で近くに身寄りがいない私たちにとって、長女は地域とのかすがいになってくれました。
子は地域の宝といわれたりするけど、それは将来、地域に貢献するという意味だけじゃなくて、子どもが持つエネルギーや命の輝きで私たちの命の輝きも強めてくれるってことじゃないかな。
子どもそのものが宝だなぁとしみじみ感じています。自分のエネルギーが一度下がったからこそ、実感できたことです」。
仕事でもあり、楽しみであり、生活でもある暮らし
福島でも、口和町でも、何かを始めるときは話し合ってきたというお二人。
「自分たちがやりたいことに対してどうありたいかを考え、それをどのように形にしていくかを考えてきました。自分たちが大事にしたいことを実現するために放牧をしたい、里山でいろんなことが循環する暮らしをしたい、そのためにどれだけの土地が必要かな、その場所が福島にあった、庄原にあったから来た、という形です。
お二人が大切にしていることは、「どうやって生きていきたいか」です。
お子さんたちに牧場について詳しい説明をすることはなくても、暮らしの中で放牧地を歩いて一緒に作業をしたりチーズ作りを体験したり。
一番上のお子さんは牧場の一日の流れや1年の流れも分かっているそうです。
「できないことやしてあげられないことも多いけど、自然の変化や小さな喜びを体で感じながら、手を動かしたり、生活にかかわることを自分でできたりと、おままごとをしているような気持ちで生きていけるなんて楽しいことじゃないかな」とうれしそうな奈津さん。
紀生さんの父親はサラリーマンで、体を壊して早く亡くなられたとのこと。
仕事でもあり、楽しみであり、生活でもある暮らしを選んだのには、親がどんな仕事をしているのかも知らないという状況ではなく、家族で暮らしている実感を味わってほしいという気持ちもあったそうです。
「ここでのじかんがみんな好きで、子どもたちが学んだり楽しんでいてくれているのがうれしい。いろんな世界を見て、自分の生き方を見つけてほしいです」
奈津さんのてまひま
奈津さんの暮らしのてまひまをお聞きすると、少し考えて「外に出ることかな」と教えてくれました。
考えごとで疲れたとき、先に進めないとき、奈津さんは庭にテーブルを出してクロスを広げ作業を再開。
外に出るためにノートパソコンを選んだそうです。
家庭教師もされていて、「今日は外で勉強しよう!」と子どもたちを外に誘うこともあるそうです。
「山にさす光、雨が降ったあとのカモミールの香り、鳥がじゃれあっている様子、そんな景色を見るのが幸せ。小さいことですけど、今の時代を幸せに生きていくために、小さな幸せを感じる力って必要なんじゃないかなと思います」とのこと。
「てまひまをかけている気もしないけど」と笑う奈津さん。奈津さんのゆっくりとした言葉を聞いていると、目の前の小さな変化がたくさん見えてくるような、そんな気がしました。
ふくふく牧場チーズ工房
項目 | 内容 |
住所 | 広島県庄原市口和町湯木1390 |
TEL | 0824-87-2195(FAX兼) |
営業時間 | 10:00~16:00 (※完売次第終了) |
定休日 | 毎週水曜日、毎月第1土曜日 電話での予約、取り置き可。発送にも対応 |