三次市の農家民宿「夢を喰う虫の農家民宿 こがねや」を営む今本さんご夫妻。
自然の美味しさを味わったり、山や川で遊んだりと田舎じかんを満喫できる物語です。
全て自然のものを使った手作りのおもてなしで農家民宿を営む今本さんご夫妻。
お金を出したら何でも買える時代に、自然の中でしか味わえない体験を提供しています。
「なんでも手作り、手間を惜しんではいけん。大変だと思ってやっていたらできん。楽しんでやらんといけん。」と語られます。
自然にあるものから全て調達してお客様に自然を味わってもらう今本さんご夫婦。
自家製のハーブティーでお出迎えし、竹を使った手作りの流しそうめんなど、遊びから食事からすべて手作りで、自然を楽しんでもらう工夫が盛りだくさん。
「お客様は家族。一緒に楽しみながら続けていきたい」と語られます。
暮らしのてまひま
夢を喰う虫の農家民宿 こがねや 今本豊さん、千草さん
広島県三次市君田町茂田にある農家民宿。2014年から今本さんご夫婦で営む。
宿泊は1日1組、最大8人まで。
宿泊料は2食付き・体験料込みで大人9000円、小人7000円。お二人と一緒に、昔ながらの田舎暮らしが体験できる。
℡0824-53-2472
三次市君田町の静かな山間にある一軒家。「こがねや」と書かれたのれんが揺れています。ここは、今本豊さん、千草さんが営む農家民宿。「なんでも手作り、手間をおしまず」のおもてなしで、食べたり、話したり、笑ったり、山や川で遊んだりと田舎じかんを過ごせる場所です。特に秋の「こがねや」は、山の恩恵をたっぷり受けたお楽しみがいっぱい。スマホを見ている時間なんてありません。
優しさがじんわり、心温まる山の味覚
三次市君田町の国道54号から、山へ山へと進んで標高450m。赤や黄に染まる山間に、紺色ののれんが目立ちます。春は森の宝石と呼ばれるブッポウソウがやってきて、冬は雪に埋め尽くされて銀世界に。積雪が1m50㎝になったこともあるそうです。
お父さんこと今本豊さんに案内されて、いざ民宿、というよりもおうちの中へ。キッチンにはお母さんの千草さん、ダイニングテーブルには料理がずらりと並んでいます。ウエルカムドリンクはクロモジ茶。山のクロモジの枝葉を乾燥させた自家製のお茶で、香りがいいと聞いていたのですがいただくのは初めて。優しい香りと温かさが体の中にじんわりと広がります。
ご準備いただいたのは、秋限定の昼定食「なば三昧定食」(1500円)。
ナバとはキノコ類をさす地元の言葉。この日に使われているキノコは、アミタケ、ハタケシメジ、ホウキタケなど確認しきれません。
そんなナバを使った炒め物、白和え、浅漬け、炊き込みごはん、味噌汁などナバ尽くしのテーブルに、サツマイモのクリーム煮など旬野菜の料理、つくしやぜんまいの料理も登場します。違う季節の食材は、塩漬けや焼酎漬けにして保存したもの。こがねやでは、一年を通して山の味覚を楽しめます。
食材の調達は豊さんの担当で、料理は千草さんの担当。レシピは豊さんのお母さんの味で、豊さんがお母さんの味つけの分量を調べて数値化し記録しておいたものを参考しているそうです。
初めての食材に、初めての味。お二人に質問しては驚いて、美味しさに感動するばかりです。
豊かな自然に真っ黒な夜、春夏秋冬楽しめる
豊さんは勤めていたころから自転車で四国へ、ヒッチハイクで全国を回る旅をしていたとのこと。たくさんの人のお世話になった恩返しをしたいと、定年退職後は民宿をしようと決めていたそうです。
旅で使っていたリュックサックに書いていたのが「夢を喰う虫」という言葉。
それに屋号をつけて、民宿名を「夢を喰う虫の農家民宿 こがねや」としました。
「こがねや」に宿泊する醍醐味といえば、田舎暮らし体験です。
「なんでも手作り、手間をおしんじゃいけん。準備も楽しまんとね」と豊さんと千草さん。体験したいことや、お子さんがいる場合はジビエのハンバーグを用意するなど、宿泊客に合わせて準備をします。田舎暮らしをたっぷり楽しむなら、1週間前までに予約をするのがおすすめです。
夏のそうめん流しは山から竹を切り出して一からつくります。
そして、自宅の庭に引いた湧き水でそうめんを流すという贅沢さ!
近くにはオオサンショウウオが見つかる川があり、魚釣りをする場合は餌を捕まえることから始めます。冬になって田畑が雪で埋まると、竹スキーや雪だるまやかまくらづくりも楽しめます。4年連続で泊まりにくる男の子は、自分でクワガタの仕掛けを準備し試すなど、ここでの楽しみ方を工夫しているそうです。
夕食前に、近くの君田温泉で入浴を済ませたら食事のじかん。
豊さんや千草さんも宿泊客と一緒にテーブルについて食事をします。
一緒に食べながら、料理も説明してくれます。
「食べて見せてあげると、安心するでしょう」と豊さん。お二人が美味しそうに食べる姿に、食欲を刺激されるはずです。その後は、みんなで話して笑って、気が付くと夜。
「茂田の夜は、真っ暗というより真っ黒よ。星がきれいにみえるよ」と教えてくれました。
宿泊する部屋は、民宿をすることを見据えて約15年前にリフォーム。
部屋にトイレもついているので、お二人に気を遣うことなく過ごせます。
そのほか、隣の牛舎にいる牛のえさやり、目の前の山から間伐した木材の薪割り、それを使った風呂焚きなど、自然を活用した営みや遊びを満喫できます。「ここにきたら、スマホをみる暇がないよ」
宿泊は春夏秋冬、年中受付。冬も道路は除雪されるのでアクセスに問題ないそうです。
ここは虫も鳥もなんでも来るよ。人も来るし面白い
こがねやから見える山は、豊さんが子供のころに植林した森。豊さんは山のどこに何があるのかを、しっかり把握しています。
「秋はナバが呼んでいるからね」と山や畑に毎日出かけてあれやこれやと収穫し、千草さんが調理します。
ただジャムづくりは豊さん担当で、柿、桑の実、ゆず、キウイ、イチジク…と年中作るそうです。
山でとってきたツルや枝、まつぼっくり、アメリカフウの実などは、木工細工に使います。
「山にはなんでもあるよ。今はお金を払えば、何でも買えるけど、お金を出しても買えんものばっかりよ」と誇らしそうな豊さん。
お二人に「お忙しくないですか」と聞いたところ、「仕事はなんぼでもある。どうせなら楽しまんとね。ここは虫も動物も鳥もなんでも来るし。人も来るし面白いよ」と笑います。
お二人のてまひま
仕事も食事も二人で一緒に楽しむお二人。
ご近所でも、仲がいいと評判だそう。お二人に夫婦円満の秘訣を聞きました。すると、「朝昼晩、一緒にごはんを食べることかねぇ」と豊さん。
そしてもう一つ、「なんでも楽しむことかね、お母さん」と千草さんに同意を求める豊さん。例えば、春に豊さんがつくしを拾ってきたら、束にして千草さんに見せて、「何本あると思う?」とクイズを出すそうです。
「お母さんの答えを聞いて、惜しいとか正解とか言よるんよ。まぁ、そんな感じよ。ねぇ、お母さん」と顔を見合わせるお二人。
こがね色に輝くお二人の笑顔に心が温まりました。