2024年元日に発生した能登半島地震では最大震度7を記録し、能登地方を中心に大きな被害が発生しました。
日本は地震大国であり、これまでにも幾度となく大きな地震に見舞われてきました。
なかでも、1995年に発生した阪神淡路大震災は大都市を直下型地震が襲ったこともあり、建物の地震対策が大きく見直されるきっかけとなったのです。
具体的には、従来の「耐震」から「制震」へと考え方がシフトしました。
制震構造とは、地震の揺れを吸収して建物へのダメージを抑える構造のことで、構造上、最も重要になるのが「制震ダンパー」という装置です。
制震ダンパーは設置費用が安く、比較的気軽に設置できることから、注文住宅に導入する人も増えています。
この記事では、いつ起きるかわからない大地震に備え、地震に強い新築注文住宅を立てたい人向けに、制震ダンパーとはどのようなものかを解説します。
導入するメリット・デメリットをはじめ、よくある質問への回答も詳しく紹介します。
この記事を読めば、地震に強い安心・安全な家づくりへの理解度が深まるでしょう。
そもそも「制震構造」とは?
建物の地震対策に関する構造には、大きく「耐震」「免震」「制震」の3種類があります。
冒頭で紹介したように、1995年の阪神淡路大震災以前は「耐震」が基本的な考え方でした。
耐震とは、柱や梁など建物構造自体の強度を高め、建物が大きな地震の揺れにも耐えられるようにすることです。
耐震構造は大地震でも倒壊するリスクが低く、人命を守ることにつながるとされました。
しかし阪神淡路大震災では、想定外の大きな揺れに倒壊する建物が続出しました。
建物に押しつぶされて亡くなる人も出てしまい、耐震構造の限界が指摘されます。
そこで、建物の地震対策は「免震」「制震」へとシフトしていくことになるのです。
免震とは、建物と地面の間に特殊な装置を入れるなどして、地震発生時に揺れが建物に直接伝わらないよう設計された構造のことです。
一方の制震は、建物の構造部に揺れを吸収する装置(ダンパー)を設置し、伝わる揺れをコントロールすることで、地震によるダメージを軽減する構造を指します。
特に、制震構造は耐震構造と異なり地震の揺れそのものを軽減できるうえ、免震構造に比べて導入コストが安いことなどから、家づくりに取り入れる人が増えています。
建築基準法により、どの建物も耐震構造にはなっていますが、制震構造を加えることでいっそう地震に強い家を実現可能です。
どうして「制震構造」が人気なのか?
住友ゴム工業によると、同社が発売している制震ダンパーを設置した住宅は、2016年4月に発生した熊本地震での半壊・全壊棟数がゼロでした。
さらに、2024年元日の能登半島地震でも、震度6弱以上を観測した地域で採用されていた約300棟すべてで、大きな損壊が見られなかったといいます。
こうした大地震でも倒壊しなかった実績が評価され、制震構造の家が人気を集めている状況です。
また、制震は免震に比べてコストが安い点も魅力です。戸建てで免震構造にしようとすると200〜300万円程度費用がアップしますが、制震装置なら50万円程度から設置できます。
最近では、地震対策への意識の高まりを受け、制震構造を標準仕様として採用する住宅会社も増えています。
制震構造に欠かせない「制震ダンパー」とは?
人気の制震構造で欠かせないのが「制震ダンパー」と呼ばれる装置です。
制震ダンパーは、建物の柱と壁の接合部などに設置することで、建物に伝わった振動エネルギーを吸収し、揺れそのものを軽減してくれます。
地震だけでなく、台風接近時の強風による揺れなども吸収し、建物へのダメージを少なくしてくれる優れものです。
制震ダンパーは揺れを吸収し、地震などによる構造体の変形や破損も予防します。
大地震の際は繰り返し余震が襲ってくるので、本震で倒壊を免れても、余震によって建物が倒壊してしまうケースも少なくありません。
その点、制震ダンパーは繰り返し地震が起こっても揺れを軽減してくれるため、建物にダメージがあまり蓄積しません。よって、地震が繰り返し起こっても建物の倒壊を防ぐ効果が期待できます。
制震ダンパーの種類
地震や台風などによる揺れを吸収してくれる制震ダンパーですが、用いられる素材によっていくつかの種類があります。
種類ごとにメリット・デメリットが異なるため、自宅に適したものを選ぶ必要があります。
ここでは、住宅で主に使用される「粘弾性(ゴム)ダンパー」「鋼材ダンパー」「オイル(油圧)ダンパー」の3種類の特徴と、メリット・デメリットを解説します。
小さな揺れも吸収してくれる「粘弾性ダンパー」
ゴムをはじめとする弾力性や伸縮性のある素材を用いて、地震などによる揺れを吸収するのが「粘弾性ダンパー」です。
粘弾性ダンパーは、小中規模の地震や強風による比較的小さな揺れにも効果が期待できます。
ゴム以外にもアクリル、シリコン、アスファルトといった弾力性・伸縮性のある素材が用いられます。
粘弾性ダンパーは、ほかの2種類に比べて導入コストが安い点が大きな魅力です。
繰り返しの揺れにも効果を発揮しやすく、小さな揺れにも対応します。
また、メンテナンス性が非常に高いので長期間の使用にも向いています。
ゴムダンパーのなかには90年間メンテナンスフリーという商品もあり、ほぼメンテナンス不要といってもいいほど、高い耐久性を備えるのもメリットです。
手軽に導入できてメンテナンス性も高い粘弾性ダンパーですが、温度変化に弱いというのが代表的なデメリットです。
温度によって硬さが変化するため、温度変化が激しいと劣化が早まり、期待される制震性能を十分に発揮できないリスクがあります。
さらに粘弾性ダンパーは通常サイズが大きいので施工場所が制限されるうえ、施工に人手が必要なため、ほかのダンパーよりも設置コストが高くなりやすい点もデメリットです。
後付けするには大がかりな工事をしなければならず、基本的に新築時に施工します。
大きな揺れで効果を発揮する「鋼材ダンパー」
金属から作られる「鋼材ダンパー」は、揺れによって金属が曲がるときのエネルギーを熱エネルギーに変換することで、地震による揺れを抑えます。
熱エネルギーに変換するには一定の揺れエネルギーを必要とすることから、大きな揺れで効果を発揮する制震ダンパーです。
鋼材ダンパーは単に金属の性質を利用しただけのものであり、3種類のダンパーのなかでも、比較的シンプルな作りなのが特徴です。
シンプルであるがゆえに導入コストがほかのダンパーよりもリーズナブルで、特別なメンテナンスも必要なく、トータルコストも安価に抑えられます。
鋼材ダンパーはシンプルなつくりゆえに、耐久性がそれほど高くないのがデメリットです。
吸収できるエネルギーの大きさには限界があるため、限界を超えると壊れてしまうリスクがあります。
大地震のあと、繰り返し大きな余震が起きてしまうと、揺れの力に耐えられなくなって破損するおそれもあるでしょう。
鋼材ダンパーは大地震への耐性が強い一方、小さな地震や強風による揺れなどには効果を発揮しないこともデメリットといえます。
小型で間取りに影響がない「オイル(油圧)ダンパー」
近年、価格の値下がりにより採用例が増えている制震ダンパーが「オイル(油圧)ダンパー」です。
地震の揺れによって、オイルが入ったシリンダ内をピストンが移動する際、オイルがピストンに抵抗することを利用して揺れを低減します。
オイルダンパーは、オイルがピストンに対して抵抗さえすれば一定の効果が現れるため、小さな揺れから大きな揺れまで、幅広く効果を発揮するのが大きな魅力です。
地震のみならず、台風接近時の強風による揺れ、近隣の通過交通による振動などにも効果が期待できます。
ほかの2つのダンパーに比べて小型で、間取り制限を受けにくいというメリットもあります。
かつては高価でしたが、今では1本あたりの導入コストがリーズナブルで、メンテナンスも不要なケースが多く、経済的なダンパーです。
オイルダンパーは小型なので、建物の状況によって設置本数を増やすこともできますが、設置すれば設置するだけ、当然コストが高くなる点は要注意です。
また、メンテナンスフリーとしているメーカーが多いものの、構造がほかのダンパーよりも複雑で、内部のオイルが漏れていないか定期的に点検が必要というデメリットもあります。
制震ダンパーに関するよくある質問まとめ
主な3種類の制震ダンパーの特徴とメリット・デメリットを紹介したところで、制震ダンパーに関してよくある質問にまとめて回答していきましょう。
住宅が耐震等級3だと制震ダンパーを設置しにくい?
結論からいうと、耐震等級3の家でも図面による耐震診断や補強計画を作成し、数値をベースに評価した内容で設計すれば、制震ダンパーを設置することは可能です。
たしかに、耐力壁と制震ダンパーの両方を同じ位置に設置することは原則できないため、考慮せずに設計してしまうと、基準を満たすだけの耐力壁を設置できず、耐震等級に影響が出るおそれがあります。
一方、制震ダンパーの効果を十分発揮するには、適切な位置への設置が不可欠なため、耐震等級と制震は両立できないとも考えられます。
制震ダンパーを設置する場合でも、建築基準法で定められている「壁倍率」(耐力壁の強さ)を維持できるよう、耐力壁・制震ダンパーの配置設計を行うことは可能です。
こうした設計上の工夫により、耐震等級3を保ちながらも制震ダンパーを設置できます。
最高レベルの耐震構造と制震構造を両立させれば、どちらか一方だけを採用するよりも、高い地震強度を実現できるでしょう。
制震ダンパーを設置すると、間取りやプランが制約される?
制震ダンパーを設置する場合でも、極端に壁の量が少ない間取りでなければ、間取りや設計プランが制約を受けることはありません。
上述のとおり、制震ダンパーの配置は耐震診断や補強計画を作成したうえ、数値をベースにした評価を受けて決定します。
制震ダンパーは構造部に直接設置するので、必要数をつけられるだけの柱や壁があれば、特に制限は受けません。
ただし、元のプランで柱や壁が少なすぎると必要数をつけられないので、構造部を増やすべく、設計プランの変更が求められる可能性はあります。
制震ダンパーはどのくらいの揺れに効果的?
制震ダンパーの種類、建物特性、配置位置などの条件の違いによって、どのくらい揺れを吸収できるかは異なります。
ただしある実験によると、2016年熊本地震の前震級・本震級の地震が連続して起きた場合でも、揺れ幅を最大95%低減できることが実証されており、多くの建物が倒壊するような震度7の揺れでも効果が期待できるといえるでしょう。
この実験は、住友ゴム工業が自社の販売する木造住宅用制震ダンパー「MIRAIE」を用いて行ったものです。
耐震等級3相当の住宅において、MIRAIE装着/非装着の場合で揺れを比較した結果、ダンパーを装着した住宅は非装着の住宅に比べ、最大95%揺れ幅を低減できることがわかりました。
山根木材では、2012年に制震ダンパー『MIRAIE』を広島でいち早く導入しています。
出典:住友ゴム工業株式会社「3つの地震の脅威に対応 業界トップレベルの制震性能|MIRAIE」
制震ダンパーは縦揺れにも効果を発揮する?
免震構造は縦揺れに対する効果があまり期待できないといわれますが、制震ダンパーに関しては横揺れにも縦揺れにも対応しており、あらゆる揺れに対して一定の効果が期待できます。
地震の揺れには、地面と垂直方向に揺さぶられる縦揺れと、地面と水平方向に揺さぶれる横揺れがあります。
建物の柱は地面と垂直方向に立っているため、縦揺れよりも横揺れに弱く、建物の倒壊被害は圧倒的に横揺れによるものが多くなっています。
ただ、強い縦揺れが起こると柱が土台から外れてしまい、その後の横揺れで倒壊するリスクが高まりかねません。
加えて、縦揺れはドスンという衝撃をともなうことから、発生時の恐怖心は横揺れよりも縦揺れのほうが大きいともいわれます。
縦揺れ・横揺れどちらも抑えてくれる制震ダンパーは、建物の安全性を高めるだけでなく、住む人の恐怖心を和らげる効果も期待できるでしょう。
制震ダンパーを後付けするといくらくらいかかる?
制震ダンパーは壁の内部、柱や梁と壁の接合部に取り付けるものであるため、建物を新築する際に設置するのが原則です。
しかし、費用をかければ後付けすることもできます。
制震ダンパーを後付けするには、既存の壁を剥がしたり穴を開けたりといった作業が必要です。
すでに建物が立っている状態なので、高所に設置する際は足場を組む手間も生じます。
さらに、壊した壁を元に戻す作業も発生するため、新築時の設置に比べて余分な費用がかかるでしょう。
新築時に設置する場合、壁の解体や回復工事、足場の設置が不要なので50万円ほどあれば工事ができます。
一方で、後付けの場合は上記の工事をしなければならないので、新築時の約2倍にあたる100万円程度は見込んでおきたいところです。
耐震等級3+制震ダンパーが標準仕様の住まいならコスト面でも安心!
日本の住宅の地震対策は、阪神淡路大震災による被害を契機に「耐震」から「制震」「免震」へと変わってきました。
制震構造は免震構造に比べてリーズナブルなことに加え、耐震構造よりも大きな地震に耐え得ることから、新築注文住宅で採用されることも増えています。
建物自体の強度を上げる耐震構造と、制震ダンパーの力で揺れを抑える制震構造を併せることで、いっそう地震に強い住宅を実現可能です。
山根木材の家づくりは、耐震の最高等級である耐震等級3と制震ダンパーの組み合わせが標準仕様です。
コストを上乗せすることなく、地震に強い安心な家づくりが実現できます。
広島・東広島・福山エリアで、大地震にも備えられる注文住宅を建てたいなら、ぜひ山根木材にお任せください。
なお、山根木材では、記事内でも紹介した住友ゴム工業の制震ダンパー「MIRAIE Σ」を、広島県でいち早く導入しています。
山根木材が手がけた家が地震にどれだけ耐えられるかを知ってもらうべく、ショールームにて「MIRAIE Σ」の耐震シミュレーションも実施中です。
詳しくはYoutubeの動画をご覧ください。
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